エピローグ
ようやく本来の夏休みを満喫できるようになった。
すると、実行の仕事の話が話題になり、
実行はどんな事をしたのか話して聞かせてやる。どれも、幽霊絡みの事件。
「…というこっちゃ」
「へぇ…何か、ややこしそうな事件ばっかりだね?」
「――やろ?彩のヤツ、綺麗なカオしてキッツイねん!まぁ…そこがええねんけど…」
だんだん実行の顔が崩れていく。せっかくの男前が台無しである。
「実行兄、何で、そんなややこしい仕事頼まれて断れない訳?彩に弱みでもあるの?」
「弱みか?…無い訳もないねんけどな。
それに、これも修行みたいなモンやと思てるし、今回は、ご褒美も貰えたし…」
またしても実行は、へらっと笑った。
「これ、何やと思う?」
実行は、半紙と思われる包みから、白い髪の毛の束を取り出して見せた。
「彩の髪の毛?」
「ピンポーン!『くれ!』言うても、あの彩が素直に髪の毛くれるはず無いからな。
結ってる髪の毛、解かしてもらって、櫛で梳いて…」
「抜けた毛を拾ってきたの?」
「こっそり失敬したの!」
しかし、榮にその意図は解らなかった。
「分かった!わら人形作るんでしょ?」
ガクッと倒れそうになる実行。
「あのね…これは『藍澤』の家に伝わる古文書に載ってた術に使うんだよ!」
「やっぱ呪いじゃん!」
「ち、が〜う!いや、違わん事も無いか…呪いもまじないも原理は一緒やからな。
まぁ、見てみ」
実行は紙で人形を作り、そこに筆ペンで『緋上彩』と名前を書いた。
そして、それをくるくると丸めて筒状にし、その髪の毛で結んだ。
「《顕現》!」
すると、その人形が青い光に包まれたかと思うと、
書かれた名を持つ人物の姿になる。
「あ、彩〜?! 」
榮は驚きの声を上げた。
白い髪、同じく白い装束。瞳だけが色を有するその人物。
赤い瞳の彩、『赤家』の当主だ。
「上手くいったみたい。《還元》!」
その言葉に、彩の姿から一瞬で元の紙人形に変わり、
ポッと火がついて紙人形は燃えた。
「あ〜もったいない!彩が一人分、無駄になった〜!」
実行が情けない声を上げる。
自分でやっておいて、それは仕方のない話だった。
「それで、これが何になるの?」
「これは、『護符』の一種や。
本人に何かあれば代わりにこの人形が受けてくれるって仕組みや。
さっきのはその一例。『おとり・編』ってトコやな」
つまり、実行は…彩を守る護符を作る為に本人の髪の毛が必要になり、
わざわざ面倒な仕事を5件も引き受けたのだ。
「実行兄ってさ…バカ?」
「うるさいな〜。俺の勝手やん。彩さえ無事なんやったら、俺はそれでええねん」
榮は呆れてしまう。
でも、実行は幸せそうだし、平和な生活が送れるだけ良しとしよう。
「やっぱ、平和が一番だね…」
――こう言った榮が6年後、
自ら危険に飛び込む問題児ならぬ、問題『当主』になっている事は、
この時、誰一人として想像していなかった…。
‐END‐